任意整理における一括返済・繰り上げ返済のメリット・デメリット
「借金返済が苦しくなったから任意整理をしたけど、ひょんなことからまとまったお金が手に入った。借金からは早く足を洗いたいし、まとめて返済できないかな…」
住宅ローンなどを繰り上げ返済したり一括返済したりするなどして早期に完済すれば、総負担額が少なくなります。利息が減るためです。
では、借金で生活が苦しくなって任意整理を行った後で、一括返済や繰り上げ返済をすることは可能なのでしょうか?可能だとしてもするメリットはあるのでしょうか?
債権者と交渉して利息のカットや返済回数の増加により、借金返済を現実的に可能にする任意整理には、裁判所を用いる自己破産や個人再生のような手間や規制がありません。
しかし、信用情報機関への登録、いわゆる「ブラックリスト」への登録により、クレジットカードは利用できなくなりますし、各種ローンも組めません。スマホなども割賦払いできず、現金で購入する必要が生じます。
任意整理の一括返済が許されていて、また、ブラックリストの登録解除を早めることができるのであれば、ぜひしたいところですが…
本記事では、任意整理後の残債務の一括返済、繰り上げ返済について、詳しく解説していきます。
このコラムの目次
1.任意整理の一括返済や繰り上げ返済は可能
結論としては、任意整理後の一括返済や繰り上げ返済は可能です。
ここでいう一括返済とは、その名の通り1回の支払いで債務全額を完済すること、つまり、元々任意整理により債権者と分割払いで合意していた残債務の全てを一気に返済することを指します。
繰り上げ返済とは、毎月の分割払いの返済に将来の分の返済も追加して支払いをすることです。
一括返済をすればもう借金の返済は不要です。繰り上げ返済をすれば、返済スケジュールを早めることができます。その代わり、どちらも「支払期日よりも早くに一度に多くのお金を払う」ことになります。
基本的に、借金を分割払いにしている債権者は、一括返済や繰り上げ返済に難色を示すことがあります。
銀行や貸金業者などの債権者は、借金に利息を付けることで利益を得ています。一括返済などをされると、将来手に入ったはずの利息を債務者から取り立てられなくなりますから、単純には損をしてしまうのです。
もっとも、任意整理後の一括返済や繰り上げ返済は、一般的に断られることはありません。むしろ喜んで応じてもらえることがほとんどでしょう。
任意整理では利息がカットされることが大半です。債権者としては、分割払いだろうが一括払いだろうが利息による儲けはありません。
むしろ、任意整理後の返済ができなくなってしまえば、債務者が自己破産してまったく返済を受けられなくなるリスクもあります。
早く返済してもらえばそのリスクも軽減されるので、一括返済や繰り上げ返済は金融機関から歓迎されるのです。
2.一括返済や繰り上げ返済のメリット
任意整理後の一括返済や繰り上げ返済には、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?
(1) 返済期間が短くなり、経済的な余裕が生まれることがある
借金がある限り、いつまで経っても家計の一部を借金の支払いに回さなければなりません。
一括返済をすれば、その時点で借金がなくなります。
つまり、繰り上げ返済をすれば借金を完済するまでの期間が短くなります。
借金を無事に完済すれば、その翌月からはそれまで借金の返済に充てていたお金を使えるようになります。
借金のない生活が早く訪れることで、少し早めにある程度豊かな生活を送れるようになるのです。
(2) 気分が楽になる
借金を抱えた生活は精神的に厳しいものです。借金の支払い分を確保するために会社や友人との付き合いを控えるようになったり、食費や光熱費を切り詰めたりする人も多くいます。
結婚を考えている人の場合、借金があるためにプロポーズに踏み切れない、またはプロポーズを受け入れづらいということもあるようです。
一括返済や繰り上げ返済によって借金を早期に完済できれば、借金の重圧から解放された生活を送れるようになります。
それまで我慢していたことをできるようになり、人生を楽しめる余裕が生まれやすくなります。
3.一括返済や繰り上げ返済のデメリット
残念ながら、任意整理後の一括返済や繰り上げ返済には、デメリットが多く、ありそうなメリットがないのが現実です。
特に、ブラックリストから登録抹消されるわけではないこと。これを忘れてはいけません。
それを踏まえると、よほど余裕がない限り、一括返済や繰り上げ返済をすることはお勧めできません。
(1) ブラックリストの登録がすぐに抹消されるわけではない
借金を完済すれば、すぐに個人信用情報機関から任意整理の事実を削除される(ブラックリストから抹消される)と考えている人がいるようです。
しかし、基本的に、ブラックリストからの登録抹消がされるときは「任意整理をした時から5年」です。
少なくとも、一括返済や繰り上げ返済を行えばすぐに、クレジットカード作成やローン契約が元通りにできるようになるわけではありません。
(2) 総支払額は変わらない
住宅ローンなどは一括返済や繰り上げ返済によって総支払額を減らすことが可能です。
しかし、任意整理後に一括返済や繰り上げ返済を行っても、総支払額を減らす効果は得られません。
先ほど説明した通り、任意整理後の債務は、元々利息がカットされていますから、減らせる利息部分が存在しないためです。
(3) 一時的に生活が苦しくなるおそれがある
ブラックリストの登録が抹消されませんから、たとえばスマホなどは現金一括払いが必要です。現金に頼る生活がまだ続きます。
一括返済や繰り上げ返済をしても支払額は変わりませんから、長い目で見ても手持ちの現金は多くなりません。
こんな状況を承知でも無理して一括返済や繰り上げ返済を行うと、突発的にお金が必要になった場合に困ります。
リストラ、交通事故、病気。もともと任意整理が必要なほど経済的に追い詰められていたわけですから、一括返済をした後に経済的な余裕ができるまでは時間がかかります。
繰り上げ返済や一部の債権者だけに一括返済をした場合、まだ返済は残っています。もし次の支払日に返済が滞った場合、契約違反として督促が始まったり、一括返済を求められたりする可能性があります。
(4) ある債権者にだけ一括返済をすると自己破産などで問題になる
いま、一部の債権者だけに一括返済をした場合に、他の債権者に返済ができなくなったら?というケースを話題にしましたが、実はこれはできる限り避ける必要があります。
裁判所を利用する自己破産や個人再生などの債務整理手続では、全ての債権者を平等に扱う「債権者平等の原則」というルールがあります。
複数の債権者全員を公平に扱って一括返済または繰り上げ返済を行わなければ、自己破産では手続負担が重くなる、個人再生では借金があまり減額されなくなるなどのリスクが生じます。
では、どのようにすれば平等な返済となるのか。これは意外と一般の方には判断しづらいものなのです。
さすがに全債権者に一括返済できれば、不公平の問題は生じませんし、そもそも、自己破産や個人再生をしなければ問題にはなりません。それでも、万が一を考えて慎重に検討してください。
(5) 「期限の利益」を自分で手放すことになる
「期限の利益」とは、ここでは「約束した時期が来るまでは債務を返済しなくていい権利」と考えてください。借金があるとしても、返済日がくるまで返済を強要されないということです。
一括返済や繰り上げ返済は、この期限の利益を債務者が手放す行為でもあります。
前もって「この日に一括返済します」と債権者に伝えたにも関わらず返済できなかった場合、それまで存在した期限の利益を放棄したうえで約束を破ったということになるので、大きな問題に発展しかねません。
なお、任意整理の契約を締結するときには「2回以上返済が遅れた場合、債務者は期限の利益を喪失する」という決まりが盛り込まれることが大半です。これは、2回以上支払いを滞納すると任意整理の内容が無効となり、残債務の一括返済や遅延損害金の請求を受ける可能性があるという意味です。
もし滞納しそうな場合は、必ず事前に弁護士に相談してください。何らかの対応を行ってくれます。
4.任意整理後の一括返済や繰り上げ返済は慎重に
任意整理後の一括返済、繰り上げ返済は可能です。
借金返済のプレッシャーから解放されるなどのメリットもありますが、一括返済によりお金を使い果たしてしまうと、生活が苦しくなるばかりか、他の債権者への返済ができなくなり、自己破産することにもなるおそれがあります。
任意整理後は臨時収入があったとしても、自身の身の丈にあった返済計画を心がけましょう。
債務整理についてお困りの方は、お早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
一括返済、繰り上げ返済のメリット・デメリットなども含め、専門家がご相談者様一人ひとりに合った借金の解決方法をご提案させていただきます。
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