自己破産で退職金は没収されてしまうの?
自己破産を検討中の方で、もう少しで退職金が支給されるという状況の場合、退職金がどのような扱いとなるのか気になるかと思います。
自己破産は、借金の支払い義務すべてを免除することができる一方で、生活に必要な最低限度の財産を除き財産を処分しなければいけないため、退職金も処分の対象となるのかが問題となります。
今回は、自己破産と退職金の関係、受け取り時期ごとの退職金の取り扱い、自己破産と退職金について知っておくべきポイントまでわかりやすくご説明します。
このコラムの目次
1.自己破産と退職金
まずは、自己破産と退職金がどのような関係にあるのかの大枠を知っておきましょう。
「自己破産をするとすべての財産が処分されてしまう」
自己破産を検討中の方は、上記のような誤解をしている方が多いように見受けられます。
しかし、すべての財産が処分されてしまうというのは完全なる誤解です。
確かに、自己破産の手続きを行うと、原則として借金全額の支払い義務が免除される代わりに、今持っている資産を破産管財人が調査の上お金に換えて、債権者に分配するという手続きを行います。
もっとも、すべての財産を処分してしまっては、破産者が経済的更生を計ることが困難となってしまうため、生活に必要と考えられる財産は「自由財産(破産財団に含まれず、処分しなくてよい財産)」として残すことが規定されています。
具体的には、①破産決定開始後に取得した財産(新得財産)、②99万円以下の現金、③差押禁止債権、などが挙げられます。
退職金債権については、法律上、その3/4が差押禁止債権とされていますので、原則として、その3/4については自由財産として残すことができ、1/4については換価・処分の対象となります。
ただ,実際の自己破産の手続においては、次でご説明するように、退職金の受取時期により取り扱いが異なってきます。
大手企業に勤められている場合は、ご説明した通り退職金の1/8が財産評価額として数えられてしまいます。しかし、中小企業にお勤めの方で、中小企業退職金共済制度に加入されている方は、退職金が処分の対象となることはそもそもありません。
共済から支払われる退職金に関しては、先にご紹介した差押え禁止債権として考えられているからです。
これ以外にも、確定型拠出年金や確定給付企業年金などは差押え禁止債権となっており、処分の対象となりません。もっとも、これらの金額が大きくなる場合は、自由財産の拡張を求める場合に拡張できる幅が少なくなってしまう可能性はあります。
中小企業退職共済制度等に関しては、通常の退職金とは異なる性質を持つという点を理解しておいてください。
2.退職金の受取時期別の計算方法
次に、退職金の受取時期別に、それぞれの計算方法を見ていきましょう。
(1) 受け取るのはまだ先という年齢の場合
まず「勤続年数は10年ほどだが、退職まではまだまだ程遠い」というケースが考えられます。
今のところ100万円〜200万円程度の退職金支給見込みがある、などという場合、これは自己破産における処分すべき財産の対象となるのでしょうか?
退職金は、給料の後払い的性質を持つといわれており、労働者の財産といえます。
とはいっても、いまだ支給されていないため、退職金支給見込額の一部分のみ財産としてカウントすべきということになっています。
具体的には、退職金支給見込額の1/8が財産として財産目録に追加されます。
例えば、退職金支給見込額が200万円の場合は、25万円が評価すべき財産となります。
(2) そろそろ受け取る年齢
もうすぐ退職予定であるというケースや、退職したがまだ退職金を受領していないというケースでは、先ほどのケースより退職金が支給される現実味が高くなります。
本来的には、退職金に関しては3/4が自由財産であり、1/4は処分の対象となる債権と考えています(ただ、退職するのが遠い先という時点では、退職金が現実に手に入る可能性は低いため、その分を考慮して1/8を財産評価額としているのです)。
このような理由から「退職時期が近い」あるいは「退職したが支給がまだ」というケースでは、現実に支給される可能性がかなり高いため、原則どおり1/4を財産評価額に加えるべきと考えられています。
例えば、500万円の退職金が破産手続き中に支給されるという場合は、125万円が財産評価額に加えられ、換価処分の対象となります。
(3) すでに退職金を受け取っている場合
すでに退職金を受け取っている場合は、預金として保管している方がほとんどでしょう。
この場合は、退職金ではなくすでに手元にある資産としてカウントされるため、預金として取り扱われます。預金の場合は20万円を超えると、換価処分の対象です。
このように、退職金の受取時期によって、財産として評価される金額は大きく変わります。
自己破産を検討中の方は、退職金支給の時期も合わせて考慮しましょう。
受け取り前の退職金については、その見込み額(現在退職したらどのくらいの退職金をもらえるのか)を計算した「退職金見込額証明書(退職金証明書)」を裁判所に提出する必要があります。
職金見込額証明書は、経理部や総務部に発行してもらえます。しかし、発行に際してはその理由を尋ねられることも多いようで、会社に自己破産をすることがバレてしまうのではないかと不安に思う方もいらっしゃるでしょう。
「住宅ローンを組むために銀行に提出する」という説明も有効ですが、それも難しいような場合には、会社の退職金規程に基づいて自分で退職金退職金見込額を計算するという方法もあります。退職金規程と計算書を一緒に提出すれば、裁判所も受理してくれるでしょう。
3.自己破産と退職金についてのポイント
次に、自己破産と退職金について知っておくべきポイントをご説明します。
(1) 破産財団に退職金債権を放棄してもらう
例えば、500万円の退職金が破産手続き中に支給されるという場合は、1/4の125万円が財産評価額に加えられ、換価処分の対象となります。
もっとも、退職金はまだ支給されていないため、破産管財人が退職金を回収するには、会社から125万円を前払いしてもらうか、破産者が実際に退職しなければいけなくなってしまいます。
ですが、破産管財人が会社に退職金の前払いを請求すると破産者が破産したことが会社に知られてしまう,破産者が退職すると職を失ってしまい経済的な立ち直りが難しくなるなどの不都合が出る可能性があります。
そこで、通常は破産者が125万円分に相当する金額を破産財団に支払うことで、破産管財人に退職金債権を破産財団から放棄してもらうことになります。
(2) 退職金が少ない場合は退職金債権全体が自由財産に
東京地裁の場合は、退職金支給見込額の1/8(または1/4)が20万円以下の場合は、退職金全体を自由財産とする措置をとっています。
そのため、退職金支給がまだ先といえる場合は160万円未満、もうすぐ支払われる場合は80万円未満である場合は、退職金債権全額が自由財産となります。
4.退職金を失わないために自己破産は早めに行うことが吉
退職金のほとんどは自由財産として処分する必要がないため、特に退職金の支払いがまだまだ先という方はそれほど不安に捉える必要はありません。
しかし、現実に支給されてしまうと、退職金の全額が換価処分の対象となってしまう可能性が高いため、自己破産を検討中の方は、できるだけ早い段階で自己破産の手続きを進めることをおすすめしています。
退職金と自己破産に関してはわからないことがあれば、弁護士にご相談ください。豊富な知識と経験に基づいて、最適な解決策をご提案いたします。
退職金をすでに受け取っているケースよりも、受け取り前の方が退職金を残せる額は大きくなります。
自己破産については、是非お早めに泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
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